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日本-EU経済関係の新展開―英国のEU離脱と日EU?EPA―

太田 瑞希子[Mikiko Ohta]

太田 瑞希子[Mikiko Ohta]

日本-EU経済関係の新展開―英国のEU離脱と日EU?EPA―

第5回 2019/10/12
日本大学経済学部専任講師
太田 瑞希子

2016年6月23日に実施された国民投票で英国民はEUからの離脱(BREXIT)を決定した。これは経済的観点から捉えれば非合理的かつ現実的ではない選択にみえる。しかし、人口も順調に増加するこのタイミングで英国民がEU 離脱を選択した背景には、まず国内の経済的要因、社会的要因、文化的要因などに加えて、格差や移民といったEU加盟国に共通する要因も存在する。これを詳細に分析すると、今後の日本社会が実は現在の英国が直面する社会的分断にいずれ直面する可能性が低くないことが指摘できる。
日系企業にとってのBREXITは、製造業におけるサプライチェーンの分断という大きな課題を生み出すこととなった。サッチャー首相からメイ首相に至るまで歴代の英政権による日本企業誘致のための支援策が功を奏し、自動車メーカーをはじめとする日本企業は巨額の投資を英国内に投じてきた。しかし、関税および税関手続きが復活すれば著しいコストと手間の増大につながる。非関税分野でも各種規制や認証の取り扱いなど離脱プランが確定しない現時点では全てがあまりに不透明である。離脱後には現状と同等の市場環境が維持される可能性は低いと見込んだ金融サービス業はいち早くロンドン金融市場(シティ)から大陸側へ拠点を移動させる動きに出たが、交渉の行方を見守ってきた製造業もここへきて脱英国へと舵を切り始めた(本稿執筆時点)。
同時に、このBREXITが日EU?EPAの推進力として作用した点は見逃されがちである。90年代以降激増した経済連携協定は、21世紀に入ってもドーハ開発ラウンドの膠着によってもたらされたWTOの機能不全を背景に、日本を含む各国の経済連携協定を貿易政策の中心に据えられてきた。しかしながら、日EU?EPAはTPP(環太平洋経済連携協定)やTTIP(太平洋横断貿易投資パートナーシップ協定)などに比して注目度は低く留まってきた。しかし、2019年2月1日の発効により、世界の国内総生産(GDP)の約3割、貿易の約4割を占める自由貿易圏の誕生は、日系企業のみならず日本経済に大きなインパクトを与え始めている。
 この講義では、日EUの経済関係を新たな段階へと進める日EU?EPAと英国の離脱のインパクトと影響について考察する。

プロフィール

日本大学経済学部専任講師
太田 瑞希子


東北大学経済学部飛び級退学、London School of Economics、東北大学大学院経済学研究科博士課程前期二年の課程を経て、同大学院経済学研究科博士課程後期三年の課程修了。経済学博士。欧州連合日本政府代表部専門調査員、欧州シンクタンクBruegelにてVisiting Scholar、亜細亜大学国際関係学部専任講師を経て、現在日本大学経済学部専任講師。主な著作?論文に『英国のEU離脱とEUの未来(共著)』『世界経済?金融危機とヨーロッパ(共著)』「Brexitの背景としての英国労働市場の変化と国内政策の影響 —英国国内の分断と格差—」「EU金融規制?監督政策からみるBrexitと英国金融サービス」「EU銀行同盟—3本柱から考察する統合の深化と展望」その他。